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  • 没原稿 御門
    [ 2008-11-24 00:13 ]

 

没原稿 御門

 ぎし、ぎしと草履が雪を踏みしめる音が響く。

「よし……もう買うものはない、ね」
 買い物袋を覗き込んでいた少女は、よいしょ、と小さなかけ声をかけ、大きくふくらんだそれを持ち直す。もう片方の手には地味な柄の和傘があって、降り続く雪から少女を守っていた。
 街は降り続く雪によって、白銀の化粧をされている。空は重たげな雲に厚く覆われていて、まだまだ降り止む気配はなかった。
 人通りも少なく、少女の足音だけが静かに鳴り、雪に吸い込まれて消える。

「しかし、失敗したなぁ」

 自分の服装を見下ろしてひとりごちる。紅白の、巫女装束。少女は巫女だった。
 足りないものに気づいて、ちょっとした買い物だからとそのまま神社を出たのが昼過ぎ。そういえばあれも足りない、これも足りないと買い足していった結果が、左手に食い込む買い物袋の重さだった。気づけばもうすぐ夕刻に差し掛かるという時間。雪の強さも増してきているし、早く帰らないと。この格好の防寒性能はそれほど良くはない。
 そして、このような天気でよかったと思った。この服はどうしても好奇の視線に晒される。まあ、こんな天気だからこそ、まあいっか、のひとことで飛び出してくることができたのだけれど。

 そんなことを考えながら、空き地の前を通る。そこでは小さな子どもたちが、雪合戦や雪だるま造りをしていた。
 楽しげな光景を見て、わずかな寂しさがよぎる。巫女修行で忙しく、学校が終わるとすぐ帰らされていたこと。そして神社の子として、どこかで『普通じゃない』と線引きをされて、孤独を味わったこと。多くの光景が脳裏に浮かび、すぐ消えていく。
「まあ、そんなこともあった、ね」
 自嘲ぎみに苦笑いを浮かべてその場を立ち去ろうとした、その時。

「……ひさしぶり」

 横合いから声を掛けられた。
 驚いてそちらを振り向くと、遠慮がちに片手をあげて立つ、眼鏡をかけた少女がいた。どこかで見たと面影を記憶から探すと、小学校で同じクラスにいた少女だと気づく。
「本当、ひさしぶりね」
 まずは挨拶を返す。
 相手は何かを言いづらそうにしている様子だった。視線をさまよわせている。
「どうしたの?」
 うながされてようやく言えるようになったのか、眼鏡の少女は口を開く。
「あの子どもたちを見てたでしょ。子どものころを思い出してたのかな、と思って」
「あれ……そんなに顔に出てたかな」
 笑顔で首を傾げてみる。

「うん、なんとなくそう思った。……ごめんね、あのときは周りに流されて、あなたと距離を置いてしまった」

 いま、ここで。あのときの謝罪をされるとは思っていなかった。思わず目を見開く。
「ううん、謝らなくても。昔のことだし、気にしないで」
 発した言葉は本心からだった。まだ不安げな顔をする相手に、笑顔を作ってみせる。
「そう……? 良かった。わたし、あのときのことがずっと気がかりで。今日ここで会えて、言えてよかった」
「そっか……ありがとう」
 思いがけない再会と、突然の謝罪。まだ正直なところ戸惑っているけれど、ふわり、と心が暖かくなった気がした。

 そこで、ふと思いつく。
「ね、それならさ、今から一緒にうち来ない?」
「え……」
 眼鏡の少女は驚いた表情になる。
「またここでさよなら、ってして会わなくなるのも寂しいし。これもなにかの縁だよきっと」
「お邪魔じゃないなら……」
「全然問題ないよ。それに、今は昔みたいに忙しくないから、いつだって来てもらって大丈夫」
 腕にかかる買い物袋の荷重を無視して胸を張ってみる。
「うん、じゃあ……、そうさせてもらおうかな」
 やっと、相手の顔にも笑顔が浮かぶ。
「そうと決まったら、早速行こうか」

 2人、肩を並べて歩き出す。
 その距離は少し遠くて、数年間の空白を物語っているようだった。でも、きっとすぐにそれは埋めれるだろう。2人の関係はまた、ここから始まるのだ。
 そう思った。

  by lath-martensite | 2008-11-24 00:13 |

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